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当研究室の研究テーマ,ナノ液体膜の微細パターニングによる機能性薄膜潤滑システムの創成が「最先端・次世代研究開発支援プログラム グリーン・イノベーション」に採択されました.
最先端・次世代研究開発支援プログラム研究テーマ
JSPS最先端・次世代研究開発支援プログラム
採択研究テーマの概要

研究背景

 ナノテクノロジーが21世紀の産業や社会に大きな影響を与えるインフラ技術として注目されるようになっています.ナノテクロジーは,原子・分子を所定の位置に配置することにより,物質・要素をナノメートルスケールで制御し,所望の機能・性能をもつ新しい材料・デバイス・システムを創成することを可能とします.その応用分野は,情報通信,エレクトロニクス,エネルギー,環境,などの工学分野にとどまらず,バイオテクノロジー,生命科学,医療・治療などの医学農学分野にも波及し,産業構造と社会構造を大きく変革する可能性をもっています.例えば,2000年年頭に米国において提示されたナノテクイニシアティブ政策において,鋼鉄の1/10の重さで10倍の強度をもつ新素材,米国議会図書館に収められているすべての情報を角砂糖一粒大に記憶する記憶装置,癌を2,3個の細胞の段階で発見し治療する薬,コンピュータの処理能力を数百万倍に向上させる半導体素子など,衝撃的な変革をもたらす応用例が列挙され,21世紀の産業革命をもたらす基幹技術として,脚光をあびることとなりました.

 ナノテクロジーとしては,カーボンナノチューブに代表されますように,物質・材料関連の研究が注目されていますが,デバイスやシステムとしての応用を考えますと,相対運動に対して,実用レベルの機能・性能を満足させることが重要な課題となります.例えば,シリコン微細加工に基づくマイクロマシンや磁気ディスク装置のヘッドディスクインタフェースでは,ナノメートルのすきまを介した固体二面間の相対運動を精確かつ安定に実現させることが,マイクロマシンの実用化や記録密度の向上に直結します.このような微小すきまにおいては,体積効果と比較して表面効果が増大して,バルク的な特性とは異なる特異な現象が現れます.すなわち,慣性力や重力という体積作用力よりも,分子間力・表面力のような面積作用力に支配され,巨大な凝着力や摩擦力が発生し,運動の継続が困難になったりすることがあります.高精度・高信頼のナノ相対運動の実現には,表面相互間の固体接触を回避することが必須であるため,ナノメートル厚さの高分子液体薄膜(ナノ液体膜)を介した潤滑技術に関心が高まっています.

ナノ液体体膜による潤滑技術の確立図

 ナノ液体膜を利用した潤滑技術では(上図),潤滑剤が潤沢に供給される一般の潤滑問題とは異なり,まず耐久性を確保するために,接触摺動に対して膜が破断しないように,固体表面に強固に固定されている自己保持機能,かつ膜が一旦破断した場合にも,周辺部の潤滑剤分子が迅速に流動して破断箇所を修復する自己修復機能が要求されます.それぞれは液体膜の固定性と流動性に基づく機能で,相矛盾する要求条件となります.特に単分子層厚さでありながら,自己保持機能と自己修復機能を両立させることが必須です.つぎに,液体膜による凝着力・摩擦力が発生しますので,円滑な相対運動を確保するためには,低凝着・低摩擦性をナノ液体膜に付与することも必須です.

研究内容

紫外線照射を用いたナノ液体膜のパターニング図

 ナノ液体膜の特性は,基本的には液体分子と固体表面との相互作用に支配されます.そこで,固体表面に塗布されたナノ液体膜に,透明・不透明部分を配置したフォトマスクを介して紫外線を選択的に照射することにより,固液分子間相互作用の強度を局所的に制御し,ナノ液体膜をパターニングして機能性潤滑表面を創成する方法を提案しました.照射領域では,固液相互作用が増強されるため,自己保持機能が支配的,非照射領域では,相互作用が弱いため,自己修復機能が支配的です.このように単分子層液体潤滑膜を機能的パターンに分割することにより,自己保持機能と自己修復機能の両立が期待できます.また,非照射領域から照射領域に分子流動が生起されるため,均一に分布していた潤滑膜は,照射後の時間経過とともに,固液相互作用の分布に対応した自己組織化凹凸パターンを形成することを発見しました.凹凸パターンにより接触面積を低減させ,低凝着・低摩擦性の実現も期待できます.さらに,パターンの最適設計により,所望の特性を有する機能性潤滑表面を創成することも可能です.現在では,シミュレーションと実験を融合したマルチスケール手法を用いて,以下の項目について研究を進めています.

  1. 長時間・大規模なトライボロジー*現象を扱えるシミュレーション手法の確立
  2. ナノ液体膜のトライボロジー特性を評価できる計測技術の確立
  3. パターンの微細化およびパターニングメカニズムの解明
  4. パターン設計指針の確立

*トライボロジー:相対運動を行いながら相互作用を及ぼす合う表面およびそれに関連する実際問題に関する科学技術.ギリシャ語のtribo(擦る)と-logy(学問)の造語(1966年).機械,表面物理,界面化学,電気電子,計測制御などが関連する境界領域の学問.

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