テイラー渦のパターン形成過程に関する数値計算

      

Numerical study on pattern formation process in Taylor vortex flow

           ○正 古川 裕之 (名大院)  正 渡辺 崇 (名大)

            正 中村 育雄 (名城大)

Hiroyuki FURUKAWA, Nagoya University, Nagoya, 464-8601.

Takashi WATANABE, Nagoya University.

Ikuo NAKAMURA, Meijo University, Nagoya, 468-8502.

The Taylor vortex flow between two concentric rotating cylinders is investigated by the two-dimensional calculation. One of the characters of the Taylor vortex flow is its non-uniqueness. The non-uniqueness means that various modes appear, even when the aspect ratio and the Reynolds number are fixed. In this paper, the non-uniqueness of the Taylor vortex flow is investigated at wide range of the acceleration rate of the inner cylinder. In addition, the various mode formation processes are observed, though the final modes are the same. To count the number of vortices, we use the power spectrum of the integrated stream function ψ in the radial direction. It helps us to distinguish strictly the qualitative processes of mode formation.

Key Words : Formation process, Taylor vortex flow, Non-uniqueness, Non-linear phenomenon

 

1

有限長の同軸回転二重円筒間に生ずるテイラー渦流れは,Benjamin(1)の研究以来,さまざまな面からの研究が行われている(2)(3).これらの研究では,円筒高さの内外円筒半径に対する比であるアスペクト比Γと,内円筒速度に基づくレイノルズ数Reが主なパラメタとして用いられた.一方,テイラー渦の特徴の一つは,非一意性であることが実験的に知られている.非一意性とは,同一アスペクト比,レイノルズ数であっても,内円筒速度の増速割合により,異なったモードが現れるというものである(4)(5).このテイラー渦の非一意性については未だ系統的な数値的解析は行われていない.そこで本研究では,アスペクト比,レイノルズ数を固定し,内円筒の増速割合を様々に変化させることにより,テイラー渦の非一意性を確認し,実験的には観察が困難な各モードが形成される過程を解析することを目的とする.

2 基礎方程式と計算方法

内外円筒半径差を代表長さ,各計算における内円筒速度の最大値を代表速度,代表長さの代表速度に対する比を代表時間として各物理量を無次元化する.内円筒半径の外円筒半径に対する比である半径比は0.667である.支配方程式は,円筒座標系(r,θ,z)表示の軸対称非定常非圧縮ナビエ・ストークス方程式と連続の式である.計算方法は前報(3)と同様である,初期条件として,全ての領域で速度をゼロとする.この静止状態から無次元時間Tの間に,内円筒速度を様々な割合で直線的に増加させる.外円筒,上下端面は静止している.流れ関数ψは,速度成分(u, v, w)に対して以下の式で規定される.

(1)

3 果 と 考 察

アスペクト比4.0,レイノルズ数700として,内円筒の増速時間Tを変化させた場合に形成される最終のモードを表1に示す.表の上から無次元増速時間T,形成されるモードを表している.この条件では,内円筒を増速する時間が増えるに伴って,変異4セルモード(A4),正規2セルモード(N2),正規4セルモード(N4)の3つの異なったモードが現れる.表1より,同じアスペクト比,レイノルズ数でも内円筒増速時間の違いにより,異なる最終モードが現れるというテイラー渦流れの非一意性が確認できる.

各モードが形成される過程で経るモードを表2に示す.正規2セルモードの形成過程においては,まず正規6セルモードが現れて正規2セルモードを形成する場合と,正規10セルモードが現れて正規2セルモードを形成する場合の2通りの形成過程がある.同様に,変異4セルモード,正規4セルモードについても,それぞれ異なった2通りの形成過程がある.このことから,アスペクト比,レイノルズ数が同じであっても異なるモードが現れるというテイラー渦の非一意性に加えて,最終的に形成されるモードが同じであっても,その形成過程が異なる場合があるという非一意性が確認できる.

発達中の流れが持つセル数を定量的に求めるため,それぞれのモード形成過程における流れ関数ψの値を半径方向に積分し,その軸方向分布に対するパワースペクトルの各波数成分の時間変化を調べる.各波数成分の値は以下の式で規定される.

()

(3)

ここで,Dは内外円筒半径差,Lは軸方向長さを示す.k = nの成分が支配的である場合は,流れが2n個の渦を持っていることを示す.図1は変異4セルモードの波数成分変化である.主要な波数成分は,k = 2→3→2と移り変わる. = 40あたりから,波数2の成分が支配的となり,最終的に流れが4個の渦を持つことが定量的に判断できる.これより,渦の数を定量的に比較することができるようになり,モードの形成過程をより詳しく調べることができるようになったといえる.図2は正規2セルモードの波数成分変化であり,最終的に波数1の成分が大きくなるなり,流れは2つの渦を持っている.図3は変異4セルモードの波数成分変化を示す.図3は図1と最終的に形成されるモードは同じであるが,表2に示すように,その形成過程は異なる.波数成分変化を見ても,図3では初期段階において波数5の成分が支配的であり,その形成過程が図1の場合と異なる.

4

両端固定端の二重円筒間に生ずるテイラー渦流れを二次元数値計算により解析し,テイラー渦流れの非一意性について以下の結論を得た.

  1. アスペクト比,レイノルズ数という支配的パラメタを固定しても,内円筒増速時間を変化させることにより,異なるモードが現れるというテイラー渦の非一意性を数値的に確認した.
  2. 同一アスペクト比,レイノルズ数で同じモードが現れたとしても,その形成過程は必ずしも同じでなく,異なるモードを経て形成される場合がある.

5 文 献

  1. Benjamin, T. B., Bifurcation phenomena in steady flows in a viscous flow - II. Experiment-, Proc. Royal Soc. Lnd., A, 359 (1979), 27-43.
  2. 渡辺崇・前田俊介・古川裕之・中村育雄, 減速するテイラー渦流れにおけるモード変化, 機論, 65-630, B (1999), 521-527.
  3. 古川裕之・渡辺崇・戸谷順信・中村育雄, アスペクト比が小さい場合のテイラー渦流れ, 機論,66-643, B (2000), 655-662.
  4. 東尚史・小河原加久治・飯田誠一, テイラー渦流れの変異モード発生機構に関する数値的研究, 機論, 58-555, B (1992), 3245-3250.
  5. 中村育雄・戸谷順信, 多重解テイラー渦におけるモードの形成条件, 機論, 60-571, B (1994), 723-729.