2013年6月6日嶋田創 准教授(情報システム学専攻)2013/4/1着任

2013年4月に着任しました嶋田創です。前は奈良先端科学技術大学院で計算機アーキテクチャの研究を行なっていました。この計算機アーキテクチャとは幅広い分野で、スーパコンピュータから組み込み機器まで、プロセッサ内部の回路構成から多数の計算機加えて電源/冷却/ネットワークも考慮する計算機センターの構成まで、色々な所に研究対象があって非常に面白い分野です。私はこの中で、特にプロセッサ・アーキテクチャの研究を中心として行なってきており、主に低消費電力アーキテクチャや高信頼アーキテクチャについて研究を行なっていました。

近年では家電等もインターネットを介して情報を受け取ることが当たり前となり、日本の全消費電力に対する、インターネットを構成するサーバやネットワーク・ルータの消費電力の割合は、年々増加する傾向にあります。具体的な数値については統計や予測の取り方によって幅が出てきてしまいますが、一例として、"(対策の無い場合)2025年には情報機器の消費電力は国内総発電量の20%にも達する[1]"という報告があります。情報機器が消費する電力は今後も増加すると考えられておりますが、従来型エネルギーの発電所による発電量増強は、二酸化炭素排出量の増加という点や、地球規模で従来型エネルギー資源の獲得競争が激しくなっている点から好ましくありません。とはいえ、現在発電量の増加が期待されている自然エネルギーは発電量が安定しないものが多く、安定動作を要求されるサーバなどのインフラストラクチャには向きません。

この問題を緩和するために、コンピュータの消費電力を削減したり、発電量の安定しない自然エネルギーのもとで安定動作を実現することによって環境への負荷を下げるグリーンIT(グリーン・コンピューティング)の実現が強く求められております(図1)。ただ、消費電力の削減は一般的に、計算性能やシステムの信頼性とトレードオフになることが多く、単純な"消費電力を削減してめでたしめでたし"で引き換えに性能や信頼性の低下を負わせるのではなく、 "性能や信頼性を落とさずに消費電力を削減してめでたしめでたし"となるように工夫しなくてはなりません。


  • 図1 グリーンITを実現するために

これまでの研究では、消費電力削減や信頼性向上を目的として、 "多少のオーバヘッドを被っても、動的に構成を変更可能な形として、様々な負荷に対応できる実装"を利用する研究を進めてきました。このような、負荷に応じた構成の変更は、近年の商用プロセッサにおいても、"負荷に応じてクロック周波数や電源電圧を変更"や"長期間動作をしない回路ブロックへの電源カット" などの消費電力削減手法として実装されております。これまでの研究では、この"様々な負荷に応じて、プロセッサの構成を変更する実装"をさらにアグレッシブに適用してきました。例として、消費電力削減のためにパイプライン段数を動的に変更する研究や (図2: パイプラインステージ統合[2])、動的に冗長度を変更することで高信頼確保に必要な消費電力を削減する研究を挙げます(図2: 適応的多重化プロセッサ[3])。


  • 図2 動的な構造変化を利用するプロセッサの研究

このたび着任した部署は、情報科学研究科を構成する研究室であるとともに、情報基盤センターの情報基盤ネットワーク研究部門でもあります。そのため、今までのようなプロセッサや個々のサーバでの消費電力削減を目指すだけでなく、より大きな計算機システムや計算機ネットワークにおける消費電力削減も手がけることになります。今までの動的な構造変化の研究経験を生かして、名古屋大学の情報基盤システムの消費電力削減に結びつく研究を進めていく予定です。

[1] 住田孝之, "グリーンITについて," 経済産業省資料, 2008年6月.
[2] 嶋田創, 安藤秀樹, 島田俊夫, "パイプラインステージ統合による プロセッサの消費エネルギーの削減," 情報処理学会論文誌, コンピューティングシステム, Vol. 45, No. SIG 1 (ACS 4), pp. 18-30, 2004年1月.
[3] Jun Yao, Hajime Shimada, and Kazutoshi Kobayashi, "A Scalable Pipeline Design for Modularizing High Dependable Framework via Spatial Redundancy," DAシンポジウム2008, pp. 169-174, 2008年8月.

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