2017年02月27日竹内 栄二朗 准教授(メディア科学専攻)2016/4/1着任


筑波大学にて2008年3月に学位取得後、東北大学にて助教、2014年7月より名古屋大学未来社会創造機構にて特任准教授を経て、2016年4月から情報科学研究科に着任いたしました。

私は人がどのように行動を決定しているかの原理に興味を持ち研究を行っています。
これまでは車輪により移動する移動ロボットや自動車などが自律的に走行する仕組みを工学的に再現することにより、その理解を目指してきました。移動ロボットの自律移動は、現在地から目的地まで、地図などがすでに持っている情報と、ロボットに取り付けられたセンサの情報から、次にどう行動すべきかをコンピュータ上に実装可能な“数式”として実現する問題です。そのためには自分が地図上のどこにいるかを知る位置推定問題や、障害物がどこにあるかを知る地図生成や物体認識、どう避けて目的地に移動するかを計算する経路計画や制御問題等を、計測誤差や環境の変化等を考慮して実現する必要があります。これらの問題に対しては、センサの誤差や環境の変化等を確率的に取り扱う確率ロボティクスと呼ばれる方法論がよく用いられており、実世界で動作するロボット技術には欠かせない分野となってきています。
屋外など多様に変化する実環境で安全確実に動作する自律ロボットの実現には現在でも様々な研究課題が存在し、近年これらの研究は自動運転を中心に活発化しています。これまでの多くの自律ロボットや自動運転の研究では、全体の制御系を認識・判断・制御といった処理に分解し情報を段階的に抽象化し、それぞれ別の分野で研究を行うことが多く行われてきました。しかしながらその抽象化の際に実際の状況に適さない表現を利用してしまうと不整合が生じ、うまく動作しない場合が生じてしまいます。そのため認識の研究では何のために認識をするのかを、制御の研究ではどのような性質を持った情報が入ってくるのかを各々理解したうえで,全体を見据え研究を進めなければ、実環境できちんと動作するシステムを実現することは難しいと考えております。
私の研究のアプローチでは,実環境での実験に基づき本来解くべき問題を明らかにする事と,それに基づき認識から制御まで統合して議論可能な自律制御系の模索を繰り返し行っています。現在は自律ロボットや自動運転等を中心に様々な自律的に動作する仕組みの研究を進めておりますが,特に私のかねてからの興味である,人の行動決定の原理の理解に向け、大きく2つの研究に取り組んでいます。
一つは認識と動作計画の同時解決問題です。人が“右見て左見て”などの確認行動を行うように、行動するには情報が必要であり、その情報を獲得するためには行動が必要です。私の研究では、行動に必要な情報と行動により得られうる情報をモデル化し、どのような順序で行動を行えば情報を得つつ安全に目的を達成できるかを同時に解く最適化問題として設計しその解決に取り組んでいます。原理は非常に単純ですが、ロボットが左右を見てから交差点を渡るといったような人と似た動作を自動的に生成する事例が実現されています。
もう一つは学習によりすべてを解いてしまういわばEnd-to-End Learningによる自律機能の実現です。人は経験し学習することで適切な動作を獲得できます。動作の学習に関する研究には長い歴史がありますが、特に近年Deep Learningに代表されるような高次情報を直接扱った学習による動作獲得に対して成功事例がいくつか出てきています。しかしながら自律移動一つを見ても動作には非常にたくさんの種類があり、どのようなデータを用意すれば目的の動作が獲得できるのかは明らかではありません。また前述した認識や制御の処理を本当に学習にて置き換えられるのか、または置き換えられることをどのように説明できるのか、研究すべき課題は多々あります。私はこれらの問題に対し、従来の確率ロボティクスの考え方からの理解と実環境での実現の両側面から明らかにし、行動決定をする原理の理解を進めていきたいと考えております。

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