2016年01月06日松原豊 助教 (組込みシステム研究センター)
若手教員の長期海外派遣

本研究科の若手教員長期海外派遣制度により,2015年4月1日~9月30日の半年間,米国ワシントン大学(University of Washington,通称UW)の Prof. Kohno の研究室に訪問研究員(Visiting Scholar)として滞在しました。Prof. Kohno は,セキュリティ&プライバシー研究室を主宰し,ウェブ,広告,ビットコイン,遺伝情報,オンラインゲーム,通信設備,組込みシステム等の幅広い分野を対象に,セキュリティの観点から研究している著名研究者です。2011年に自動車の制御システムをハッキングした論文を発表し,世界に衝撃を与えました。この論文や,組込みシステムのセキュリティに関する情報交換をする機会があり,それがきっかけで,長期滞在を受け入れて頂きました。

ワシントン大学のあるシアトルは,米国西海岸の最北端に位置するワシントン州の中心的な都市で,ボーイング,マイクロソフト,アマゾン,グーグルなど,世界的に有名な大企業が集結しており,大学やスタートアップ企業も含めて,ソフトウェア産業が非常に盛んです。コーディングやハッキング,起業アイデアプレゼンなどの技術的なイベントが各地で日常的に開催され,新しいものを自分たちで作り出すというエネルギーがあります。 企業と大学との連携も盛んで,企業の技術者による講演が,大学で毎週のように開催され,多くの教員や学生が参加していました。このような環境にいる技術者,教員,学生は,自分の研究分野だけでなく,コンピュータサイエンスに関する幅広い分野に興味を持ち,吸収し,常に自分の知識や技術力を高めようとする雰囲気がありました。

Prof. Kohno の研究室には,教員2名,Ph.DコースとMSコースの学生が10名ほど在籍していました。研究室の体制は完全にフラットで,基本的には,学生がそれぞれ独自の研究テーマを持っていました。定例ミーティングは,とても自由な雰囲気で,教員からの指示を学生が聞いて実行するということはなく,主体的に研究を進める学生に対して,教員はアドバイザ,議論相手に徹するという形で運営されていました。週に1度開かれるセミナー(研究発表や論文紹介)は,他の研究室と合同で開催され,発表内容に興味を持つ学生が自由に出入りし,発言していました。年齢や立場に関係なく,相手の話をしっかり聞き,自分の意見をはっきり言う雰囲気があり,このような積極的な行動から,数多くの研究成果がスピード感を持って生まれてることを実感しました。

この長期滞在では,私は,大きく3つの目標を持って望みました。(1)米国の大学や研究室の仕組み・運営方法を学ぶこと,(2)セキュリティ研究の最新動向を把握すること,(3)組込みシステムのセキュリティに関する研究テーマを見つけることです。(1)に関しては,先に述べたとおり,米国流のやり方(良い面だけでなく問題点も)を見ることができました。産業構造や企業の考え方の違いが,大学や研究室での研究・教育にも大きく影響することも分かり,日本との違いの大きさを感じました。(2)に関しては,米国内で開催された国際会議や,ワシントン大学内のイベントに参加する数多くの機会を得ることができ,議論を通じて多くのことを学びました。(3)に関しては,滞在中に,組込みシステムに関する研究テーマを持った学生が近くにいなかったため,自分で論文を集め,通信やネットワークをハッキングするツールを収集して試用したり,他大学の研究者と共同で,組込みソフトウェアの脆弱性やバックドアの有無を検証する環境を構築したりと,研究に没頭する日々を過ごすことができました。ここでの成果は,日本に持ち帰り,研究を続けています。

今回の長期滞在では,ビザ取得,アパート契約,友人や近所付き合いなどの生活面でも学ぶことが多く,通常の海外出張ではなかなか経験できないことも数多く経験することができ,私の人生にとって大変有意義な時間を過ごさせて頂きました。この滞在を実現するために,訪問先の研究室だけでなく,名古屋大学情報科学研究科,組込みシステム研究センター,高田研究室の教員,事務スタッフの皆様に多大なご協力を頂きました。心より感謝致します。


  • 写真:ワシントンD.C.で開催された国際会議USENIX Security 2015にて,研究室のOB&現役メンバで撮影

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