2014年06月10日複雑系科学専攻・生命情報論講座
吉田研究室(吉田久美教授)

複雑系科学専攻・生命情報論講座・吉田研究室では今、何かと話題の「ポリフェノール」を対象に様々な研究を行っています。

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1)では、どこが複雑系なの? 

メンバー構成が複雑系

情報科学研究科は独立研究科のため、全ての院生が学内の他学部や国内の他大学から来ています。(情報文化学部、理学部、農学部、工学部、教育学部、生活科学部、人間関係学部、水産大学校など)

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そして、研究室には大学院生だけでなく、招へい教員、技術補佐員、共同研究者等、いろいろな年齢、立場の人が集い研究に打ち込んでいます。もちろん、私達も必要に応じて他研究室へ共同研究に出かけます。さらに実験材料の生産には、博物館圃場の技術職員の方や近隣、遠方の農家、試験所の方々に大変お世話になっています。

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研究対象が複雑系

花の色のほとんどは、アントシアニンと呼ばれる植物色素によって発色しています。しかし、アントシアニン分子だけでは決して多彩な美しい花色は発色しません。そこに共存する助色素分子や金属イオンなどがあってこそ、花色が保たれます。

また、最近研究を開始した「色素増感太陽電池」は、電極、酸化チタン、増感色素、電解質などから成り立つシステムで、アッセンブルして初めて性能が出ます。

研究手法が複雑系

基盤となる研究分野は天然物化学・生物有機化学ですが、植物生理学、分子生物学、計算化学、電気化学、ナノテクノロジーから量子化学その他、必要に応じていろいろな手法を組み合わせて研究にチャレンジしています。

2)生命情報って何ですか? 

生命の定義

生命である条件として、「自己の維持」や「自己と他の区別」、「自己複製」ができることが挙げられます。生命現象は極めて広汎な性質と大きさを持つ生体分子が様々に相互作用し、これらが統合的に制御されたシステムと捉えることができます。

私たちが考える生命情報とは

(1)生命体を構築する物質の情報(ゲノム、タンパク質や多糖など生体高分子の配列と高次構造情報、生理活性物質の構造情報など)と(2)生命体におけるネットワーク情報(遺伝情報の発現制御、細胞内シグナルカスケード、細胞間シグナル伝達など)とが有ると考えています。多数ある生命現象の中で研究対象を厳選し、その課題に独創的な研究手法を開拓することで挑戦しています。

3)具体的にはどんな研究をしているの? 

青色花色発現のしくみの解明

世の中には、ツユクサやヤグルマギク、アサガオのように青い花のある種と、バラ、キク、カーネーションのように青色の花の無い種の植物があります。私たちは、直接青いバラの育種を目指してはいませんが、その基盤的な知見となる可能性も持つ、青色花の発色のしくみを研究しています。

その一つに金属イオンとアントシアニンの錯体形成があります。特定の金属(ヤグルマギクやチューリップでは鉄イオン、アジサイではアルミニウムイオン)が高濃度で液胞に運ばれる必要があります。また、分子が会合して超分子になることも重要です。一方、空色アサガオでは、開花時に細胞pHがアルカリ性にまで上昇することがわかりました。

アジサイはなぜ色が移り変わるのか

アジサイは別名「七変化」とも言われ、花言葉は「移り気」です。実はアジサイでは、一種類のアントシアニンが青色も赤色も発色します。一つの着色細胞を取り出して化学分析することにより、アジサイの個々の細胞の色が、液胞pH、アルミニウムイオンの含有量、助色素(無色の分子でアントシアニンの発色を助ける)の構成比によって、連続的に変わることを見いだしました。現在は、なぜそのような多様性が生まれるのかにも興味を持っています。

酸性土壌耐性の獲得機構の解明

アジサイは、酸性土壌で育てると土中のアルミニウムイオンが水によく溶けて根から吸収され、萼片はより青くなります。ところが、通常アルミニウムイオンは植物の根にとって毒で、酸性土壌では植物は良く生育できません。アジサイはアルミニウムに高い耐性を持つ植物の一つです。最近、この耐性に重要な役割を果たす、液胞へアルミニウムを輸送するタンパク質を明らかにしました。水チャネルと良く似た構造が推測されており、現在その機能や構造の研究を進めています。

機能性アントシアニン、カテキン、フラボノイド類の合成研究

アントシアニンやカテキン類などのポリフェノールには、抗がん作用や抗糖尿病効果などの様々な有用な機能のあることが明らかになってきました。しかし、現在でもこれら化合物のほとんどは植物から精製されています。私たちは、機能性の高い分子の効率的で柔軟な合成法の開拓を目指して研究を行っています。フラボノールからアントシアニンへの高効率の変換反応を最近見いだし、数グラムスケールでの合成を実施しています。

マメ種皮の色素の構造、生合成、蓄積機構

お正月に食べる黒豆の色素はアントシアニンで、紅葉の色素と同じ構造です。一方、赤い小豆の色素はアントシアニンではない別のポリフェノールです。これらを含め様々な食用植物の色素の構造、どのように植物の中で生合成されるのか、また高濃度で蓄積する機構に興味を持ち研究を進めています。

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4)ここが「Only One」 

花色に関する化学と生物学を統合した研究のできる場所

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単一細胞分析化学の実験設備を配備

植物用細胞内微少電極実験装置は、多分、花の細胞の色とイオン濃度を同時測定できる装置としては国内唯一です。

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それ以外にも、単一細胞内の成分の定量分析ができるミクロHPLC装置など、多数分析装置があります。

情報科学研究科内でも男女共同参画の進んだ研究室

2000年に吉田が着任して以来、歴代の修士、博士学位取得者の過半数が女性です。皆それぞれに社会で活躍しています。

第5回国際アントシアニンワークショップ(IWA2009)の開催

2009年9月に名古屋大学で開催され、実行委員長を務めました。日本初の会議で160名余の参加者がありました。

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第27回国際ポリフェノール会議(ICP2014)を開催予定

2014年9月に豊田講堂を主会場に開き、組織委員長を務めます。これまでヨーロッパを巡回してきた会議で、アジアでは初の開催となります。

5)メンバーから一言 

☆ 情報科学研究科の中ではどの研究室よりも朝早くから夜遅くまで研究活動(主に実験)に励んでいる自信があります。幅広い分野から来た人たちと語り合い、多くの面で支えあうことができると思います。(D)

★ 僕はカテキン類の合成をテーマに研究しています。健康食品が好きな僕にはぴったりなテーマです。研究は朝から夜までありますが、研究室内の人達も嫌がらず毎日研究し、議論し、雑談し、楽しみながら成長できる研究室です。(M2着ぐるみ職人)

☆ 研究室のメンバーで試料となる花を摘んだり、豆の皮をむいたりとアナログな一面もあれば、最新の機器を使って分析をするハイテクな一面もあり、幅広い実験のできる研究室です。(M2)

★ アジサイなどの植物を研究対象とし、有機化学や天然物化学、生物学的な様々なアプローチによる研究を行っています。実験設備の充実、各分野に詳しい先生方の指導のおかげで、幅広い知識や技術を身に付けることができます。学生のバックグラウンドも様々で、それが独創的な研究につながっているのだと思います。年に数回ある打ち上げで、皆でたこ焼きやおにぎりなどを作って食べるのも楽しみの一つです♪(M)

☆ 分子生物学から有機化学まで、各自のテーマに沿って幅広く研究を行っています。1週間を共に過ごす仲間たちと協力し合い、時にはイベントを計画しながら充実した研究生活を送っています。(M1)

★ 元気でアクティブな吉田先生のもと、学生一人ひとりが自分で実験を組み立て、それぞれのテーマに取り組んで います。時間に追われることはありますが、充実した時間を仲間と過ごしています。(M1)

☆ 個人が自由に研究できる環境が整っており自主性や自立性を高めるには最適です。(M1)

★ 吉田研究室にはホットでチャレンジングな人がいっぱいです。忘年会にお好み焼きパーティーやったり、たこ焼きパーティーしたり、食べることが好きな人やチャレンジャーにはぴったりですよ。(おばさん技術補佐員)

6)参考URL 

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