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研究者総覧「情報知」

複雑系科学専攻

氏 名
張 賀東(ちゃん ふうとん)
講座等
物質情報論講座
職 名
准教授
学 位
博士(工学)
研究分野
ナノ物理現象のシミュレーション / ナノ計測 / ナノトライボロジー

研究内容

ナノワールドを観る、楽しむ
■研究の概要■
21世紀には、原子・分子を所定の位置に配置することにより、人工的に所望の特性・機能・性能を実現するナノテクノロジーが、産業の基盤技術として本格化すると期待されている。ナノテクロジーとしては、カーボンナノチューブに代表されるように、物質・材料関連の研究が注目されているが、デバイスやシステムとしての応用を考えると、相対的な運動に対して、実用レベルの機能・性能を満足させる必要があり、デバイス・システムのもつ表面の運動学的な特性・性能が問題となる。そこで、マイクロ/ナノマシン、バイオ操作、ヘッド媒体インタフェースなどへ応用するため、ナノ領域おける相対運動の二面間に生じる複雑な現象を解明し、安定な相対運動系の実現を目指す研究を進めている。
■研究テーマ■
(1) 複合ナノ構造テクスチャによる機能性表面の創成
ナノ構造テクスチャとナノ分子膜の相互効果を利用して、表面に複合ナノ構造を形成することにより、材料的な固有の特性とは異なる人工的な特性を実現し、所望する機能性表面を創成するものである。ここでは、分子運動としてランダムで複雑な挙動を示す高分子のトライボ機能や性能を、力学的な観点から評価するとともに、観測が困難な分子の挙動を分子シミュレーションによって解明することが重要な課題となる。まず、表面ナノ構造とナノ分子膜との相互作用として、分子膜の表面流動特性・力学特性を計測するナノ変位・ピコ力計測を確立するとともに、モンテカルロ法・分子動力学法を用いたシミュレーションにより、複雑系としてのナノ高分子膜の挙動を明らかにする。さらに、これらの結果に基づき、複合ナノ構造テクスチャによる高精度かつ超安定の新規な機能性トライボ表面の設計指針を提供する。
(2) 固体表面におけるナノ高分子膜の分子層間力学特性の計測
ナノレベルの相対運動を実用レベルで実現するためには、ナノメートル厚さの高分子液体膜を介した潤滑技術が必須である。このナノ潤滑膜は、接触摺動に対して破断しないように潤滑膜が表面に強固に固定されること、かつ一旦破断した場合にも迅速に回復する流動性を有することが要求される。これらの相反する要求条件を実現する技術として、例えば磁気ディスクでは、極性末端基をもつ潤滑剤を使用して、末端基と固体表面を強固に結合させて固定層とし、その上に表面と結合しない流動分子層を配置する多層構造が採用されている。この層状構造は、トライボロジー特性に強く影響すると思われるが、分子層数を一定にするための実験条件の設定が困難であったために、これまで研究例がなく、未解明の分野であった。本研究では、固体表面上に層状配列した分子潤滑膜の層間に生起する摩擦・減耗修復特性を計測できる装置を構成するとともに、層状配列した分子層間の滑りに基づく多層分子膜の潤滑機能とメカニズムを解明する。
(3) 生体高分子分別におけるナノ流路構造の最適化
バイオテクノロジー分野では、生体分子を分離分析する技術分野がある。分子の大きさごとに分離するために、分子サイズによってブラウン運動の大きさに差があることに着目して、流路にナノ流動障壁を設けて、ブラウン運動によって分子を障壁に入り込ませ、分子サイズによる障壁内の滞在時間差を利用する方法が提案されている。この場合には、ナノ流動障壁の構造設計により、分離できる分子サイズの分解能を最大することが重要な課題となる。本研究では、実測やシミュレーションにより、流路内における生体高分子のナノ流動特性を明らかにするとともに、ナノ流動障壁の配列パラメータと分子移動速度の関係を評価して、分解能を高めるための障壁構造の設計指針を提供する。
■今後の展開■
現在では、主として磁気ディスクのヘッドディスクインタフェースを研究対象としているが、技術的にみれば、マイクロマシン、マイクロファブリケーション、遺伝子操作などナノメートルの加工・運動・制御を対象とするナノテクロジーの分野におけるシミュレーション、計測や、トライボロジー技術と共通した点が多い。このため、本研究で得られる結果を、磁気ディスク装置のみならず、広くナノテクの分野にも展開していきたい。
実験室(クリーンルーム)風景

実験室(クリーンルーム)風景

経歴

  • 2002年名古屋大学大学院工学研究科電子機械工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。
  • 2002年同大学大学院工学研究科助手。
  • 2003年同大学大学院情報科学研究科助手。
  • 2010年同大学大学院情報科学研究科准教授。現在に至る。

所属学会

  • 日本機械学会
  • 日本トライボロジー学会

主要論文・著書

  1. Solvent Effects on Friction Properties of Monolayer Perfluoropolyether Films Coated on Magnetic Disk Surfaces, IEEE Transactions on Magnetics, 45, 3632-3635 (2009).
  2. Quantification of the Surface Morphology of Lubricant Films With Polar End Groups Using Molecular Dynamics Simulation: Periodic Changes in Morphology Depending on Film Thickness, ASME Journal of Tribology, 130, 022301-1-9 (2008).
  3. Self-Organized Patterning of Molecularly Thin Liquid Polymer Films Utilizing Molecular Flow Induced by Ultraviolet Irradiation, Applied Physics Letters, 90, 123119-1-3 (2007).