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研究者総覧「情報知」

複雑系科学専攻

氏 名
中村 泰之(なかむら やすゆき)
講座等
多自由度システム情報論講座
職 名
准教授
学 位
博士(工学)
研究分野
eラーニング / 統計物理学 / 経済物理学

研究内容

マルチエージェントゲームの理論とシミュレーション
■研究の概要■
本来物質の性質を解明するために開発された統計物理学の手法が、脳の神経回路網、画像処理などの情報科学の緒分野、さらに経済をはじめとする社会科学の分野にまで、新しい切り口として適用され始めている。この統計物理学、特にスピン系の統計力学の手法、そして計算機シミュレーションを用いて、経済現象の性質の解明を目的としている。より具体的には、現在はマイノリティ・ゲームとその拡張モデルを用いた解析を行っている。
1997年に提案されたマイノリティ・ゲームは、市場の少数派原理を実装した、非常に単純で簡素なモデルでありながら、大変複雑な振る舞いを示すモデルとして多くの注目を集めている。モデルを拡張し、より現実的な市場モデルを構築することによる、計算機シミュレーションを中心とした研究と同時に、簡素なモデルであるがゆえに、理論的解析が可能で、スピン系の統計力学の手法を適用した、理論的研究を行う。
■研究テーマ■
(1) マイノリティ・ゲームにおける投資の効果
現実社会においては、高所得者層の所得あるいは富が冪分布に従うという事実(パレート則)が知られている。社会の性質を反映したマイノリティ・ゲームの世界においても、同様の分布が実現されるのか、また実現されるとすれば、その主要な原因は何であるかに興味を持ち、研究を行っている。
これまでのシミュレーションの結果から、ゲームを構成する各エージェントが自身のポイント(富)に応じた投資を行うことが、所得・富の冪分布生成の原因の一つであることが明らかになってきた。下図は、十分時間が経過した後の、マイノリティ・ゲームを構成するエージェントの所得の分布を表すグラフで、横軸は所得、縦軸は累積分布を両対数表示したものである。今後、理論的なアプローチによる解析を進めていく計画である。
(2) マイノリティ・ゲームをベースとした人工市場モデル
マイノリティ・ゲームは簡素でありながら、多様な現象を示すモデルとして大変興味深いが、それ自身では人工市場のモデルとしては様々不足する点がある。そのような理由から、様々な拡張モデルが提案され、現実の経済現象との比較が行われている。何が人工市場モデルの本質であるのか、人工市場モデルとして求められる点は何なのか、マイノリティ・ゲームをベースとした拡張モデルを用いて追求していく。
(3) マイノリティ・ゲームの確率過程
エージェントの行動を記述したミクロモデルから、市場のマクロな動向を示す経済時系列を導くアプローチが近年さかんに行われている。経済時系列の様々な統計的性質が冪則に従うことを説明するためのアプローチである。マイノリティ・ゲームというミクロモデルから、系のマクロな性質の時間発展を記述する確率過程を導出することは、マイノリティ・ゲームにおける冪分布の原因究明のための強力なアプローチであると考えられる。
■教育■
学部における物理系教育にも興味をもっており、数式処理システムを利用した教材開発、e-Learningを視野に入れた教育システム開発も行っている。

経歴

  • 1995年京都大学大学院工学研究科数理工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。
  • 1995年名古屋大学情報文化学部助手。
  • 2003年同大学大学院情報科学研究科助手(配置換)。

所属学会

  • 日本物理学会
  • 情報処理学会
  • 日本数式処理学会
  • コンピュータ利用教育協議会
  • 教育システム情報学会
  • 人工知能学会

主要論文・著書

  1. Minority Gameにおける富のダイナミクス,情報処理学会論文誌:数理モデル化と応用,vol. 147, pp. 138-143(2006).
  2. A Fashion Model with Social Interaction, Physica A 337 (2004) 625-634.
  3. Monte Carlo Study of a Mixed Spin-1 and Spin-3/2 Ising Ferromagnet, IEEE Transactions on Magnetics 5 (2002) 2406-2408.